メアリと魔女の花
【評価】★★☆☆☆
宮崎駿の100番煎じ
【批評】
(批判します。本作が好きな方は読まないでください。)
期待していただけに、非常にがっかりさせられた。本作が駄目な理由は以下の3点である。
①既存表現の使い回し
②魔法世界の描写があまい
③ハラハラドキドキしない
以下、詳しく説明する。
①既存表現の使い回し
「見たことがある!」というシーンの連発でとても退屈だった。
過去のジブリ作品へのオマージュというのも分からなくもない。しかし、本作は米林監督がスタジオジブリから独立して最初の作品であり、脱ジブリ、脱宮崎駿が試される作品だったはずだ。
「ポスト宮崎駿論」が嫌いな人の気持ちはわかるが、むしろ米林監督自身が強烈にポスト宮崎駿を意識していると思われる。「比べて批評するな」って言われても、向こうが「比べて批評して」って言っているレベルだ。
勿論、「魔女+黒猫」が『魔女の宅急便』だ、といった当たり前の部分を否定しているのではない。絵柄や世界観が宮崎駿似であることは予告編で十分承知している。
そうではなく、いろんな展開であったり、キャラクターの描き方だったりが、ジブリ映画そのものなのだ。いや、さらにいえばジブリの影響を受けた日本アニメのそれをそのまま踏襲している。二番煎じどころではない。
例えば、
・頬杖をつきながら窓の外を退屈そうに眺めている女の子(退屈な日常→非日常への移行の布石)
・なんだか意地悪な近所の少年(どうせ仲良しになるんでしょ)
・かご(葉っぱ)を被って、慌てるドジっ子(ベタ過ぎて、見ていて恥ずかしいレベル)
・男の子にからかわれて「いーー、だ!」
(同上)
など、序盤だけで、あなたもどこかで見たことがあるシーンの連続である。
その後の、サンドイッチを猫にあげるシーンも、「食べ物を動物に分け与えることで主人公の清い心を表す」なんて宮崎駿の鉄板中の鉄板である。
私はこの時点で、「あぁ、この映画は作り手が見て来た過去の作品に足を引っ張られている」と感じてしまった。
何一つ新しい挑戦がないのだ。すでに完成して使い古されている記号化された表現を、恥ずかしげもなく使ってしまっている。それでいいの?米林監督!
また、「手に負えない力」やら「想定内」やら、ラストの実験失敗シーンは間違いなく福島第1原発事故の批判である。しかし、震災から6年たった今、原発批判を組み込んだ映画は世の中に溢れている。今原発批判を入れるならば、より作家的で高度な表現が求められている。(『シン・ゴジラ』は実に上手くエンタメに昇華させていた。)
しかし、本作はただモンスターを巨大化させただけだ。あれが、魔法学校を襲ったり、一般世界に入り込んだりするわけでもなく、ただ巨大化させただけ。だからそれ見たことあるから!
こんな単純なありきたりラストシーンに原発批判を組み込むなんて、表現として稚拙すぎる。
このように、本作は、導入だけでなく結末まで、使い古された表現に埋め尽くされているのだ。
②魔法世界の描写があまい
メアリが魔法学校に迷い込んでからのシーンも残念ながら盛り上がらない。これはもう原因ははっきりしていて、「魔法の世界の描写が弱すぎる」からだ。
異世界に迷い込む系ストーリーは、アニメだけでなく、ファンタジー物語の定番であるが、勝負は「どれだけ異世界の存在に説得力を持たせられるか」である。そのために異世界のディティールをちゃんと描かないといけない。
異世界に実在感を持たせる方法は、例えばその世界のキャラクターの衣食住を描くことだ。『ハリーポッター』『千と千尋の神隠し』『バケモノの子』…あげるとキリがないが、異世界の説得力がある作品はその世界の衣食住がちゃんと描かれている。
一方本作は、登場人物が何を食べて、何処に住んでいるのか(校長と魔女の部屋を覗いて)よくわからない。結果、キャラクターに説得力がない。
そしてそもそも、キャラクターが少なすぎる。魔法世界の主要キャラクターは、校長とドクター、箒番人、赤毛の魔女であるが、その他大勢がまったく描けていない。上級クラスの生徒全員に仮面かぶらせるのは、一人一人キャラクターを描くことをサボっているだけだ。また、悪者を手助けするのも全員ロボットで、個性がない。こんなにキャラクターが少ないと、世界に説得力が出るわけがない。
本作は世界観の演出をサボり過ぎている。
また、大学案内のシーンは観客を世界に引き込むための大切なシーンであるが、そのシーンも面白みに欠ける。見ていてワクワクしないのだ。
そしてここに私の嫌いなシーンがある。
(正確には覚えていないが)ドクターに「AパターンかBパターンかどちらだと思う?」と聞かれてメアリが「Bかなぁ、、」と答えたら、「そいうことか!メアリ君、君は天才だ!」となるシーン。
いや、何かの研究をしていて、可能性が2パターンにまで絞り込めていたら、言われなくても普通もう気付くよ。「適当に言った意見が偶然評価される」というシーンを描きたかったのだろうが、脚本があまりにも馬鹿すぎて成立していない。ここは本当にイライラした。
上級生の前で「君も姿を消す魔法をやってみなさい」って、なんで?いくら素質があるからって、見学に来てるだけの生徒に魔法をやらせる意味がわからない。
結局、このシーンは魔法学校と夜間飛行の力を説明するためだけの時間であり、観客を世界に引き込むことに失敗している。これでは、これから起こる出来事にも共感できない。
③ハラハラドキドキしない
敵が弱過ぎませんか。
例えば、校長がよくトビウオみたいなやつを出して襲ってくる。追いつかれてどうなるかと思えば、生身に対してはまさかの甘噛みの連続。確かに箒を食べられるのはやっかいなのだが、それもちょーーーっとずつ食べるので時間がかかる。正直あの間に全然振り切れると思う。
校長にはよく追いかけられるのだが、基本校長はツメが甘い。湯婆婆や荒地の魔女のような存在感もない。
ラスボスも、ただ巨大化するだけであまり脅威を感じない。攻撃といった攻撃をしてこないし。
ドクターは敵というには可愛すぎる。
結局、観客をハラハラさせてくれる敵がいないのだ。終始生ぬるい温度感で物語が進行していく。私は上映中ハラハラドキドキすることは一度もなかった。
そもそも、本作は少女の成長ストーリーとして機能していない。結果、観客がメアリに感情移入することはない。
以上のように、本作は残念ながら駄目なポイントが目立つ作品となってしまった。正直、「子供向け」である。
しかし、アニメの本質である絵は最高に美しく、躍動感もある。これを大スクリーンで見ることは、十分に価値があると思う。
そして、米林監督は、(本作が共同脚本であることは承知しているが、)今後は監督に専念し、脚本は別の人に100%任せるべきではないだろうか。
いずれにせよ、次回作に期待している。