ブルーハーツが聴こえる

【評価】★★☆☆☆

監督の個性が出る6作品。総じて小粒。

 

【批評】

オムニバスなので、批評は個別にやります。

 

「ハンマー(48億のブルース)」

映画というより舞台だった。

セリフの言い回しであったり、ワンカット長回しであったり。いや、舞台というより東京03のコントを見ているようでもあったかな。それだけ、良くも悪くも角田の存在感は大きかった。

登場人物間のやり取りは楽しかったし、失恋への怒りはテーマ曲「ハンマー」との相性も良かった。ただ、舞台用の言い回しは映画で見るとえてして寒くなるので、全体的にゆるーくスベっている。

 

「人にやさしく」

確実に駄作。ブルーハーツブルーハーツファンに謝った方がいい。

そもそも、ドラマと「人にやさしく」がまったく合っていない。「人にやさしく」が流れ始めたときの「やってしまったな」感が凄い。市原隼人の低レベルCGラストシーンは笑うこともできない。「こっち見んなw」が止まらない。

そもそも、ストーリー自体つまらない。厨二病をこじらせた中学生が一晩で考えそうな陳腐な設定。人類vs機械の終末戦争を20分そこらで描こうとするほうが無理があるし、そもそも20分そこらで描ける話なんて絶対つまらない。星新一みたいなショートショートに振り切って5分ぐらいにした方がまだ良かったのではないか。

 

「ラブレター」

ありきたりなタイムワープ系かと思いきや、まさかのシザーバンズで、面白かった。コメディなんだけど、抑えるところは抑えている、という感じ。

主人公の斎藤工は、山本舞香演じる彩乃ちゃんの手をシザーバンズに書き換えるわけだが、そもそもなぜシザーバンズなのか。映画の中では「落ちてくる鉄骨に耐えるため」と説明しているが、手をハサミにしたぐらいで耐えられるはずがない。これはおそらく、学生時代の叶わぬ恋の痛みが、まさに刃物で心を切られる気分だったことを表しているのではないだろうか。

全体的にテンポもいいし、テーマ曲「ラブレター」とも合っていた。ただ、「映画でよくあるやつじゃないか」みたいなメタセリフはさめるのでやめて欲しい。

 

「少年の詩」

映画ファンとしては、清水崇はホラーに専念して欲しい。たまにやるホラー以外は、悪くはないが残念ながら平均点を超えられないイメージ。

本作も、テーマ曲「少年の詩」が流れるときの爽快感はよかったが、そもそものストーリーに新しさはない。大人が子供に殴られたぐらいで鼻血が出るのか怪しいが、何かのメタファーだったのかもしれない。でも軽くスベっているので考えるのをやめてしまった。

 

「ジョウネツノバラ」

浅い。恋人の死に耐えられない人間の話はこれまでも何度も描かれてきた。特別新しい解釈を提供しているわけでもない。水原希子のプロモーションビデオだった。死後硬直無視はどうかと思う。

 

1001のバイオリン

6作の中でもっとも観られる作品。やはり監督李相日の力が大きい。

原発事故以降、自主避難した者、しなかった者。東京に馴染むことで前に進もうとするもの、進めない者。各々がそれぞれの選択に自信を持つことができないなか、それでも生きている。そんな、原発に振り回されている人たちの葛藤を端的に描いている。

「目に見えないから怖いんじゃない。目を背けるから怖いんだ。」はまさにその通りであり、それは必ずしも被災者だけに向けられた言葉ではないはずだ。

エンドロールでは、無音の中、聴こえるのは被災地の波の音だけ。観客は自分がその場にいるような感覚になるだろう。そして、そこで生活している(いた)人たちの存在を感じることになる。これこそ、本作の狙いだろう。

 

 

全国公開の際に資金が立ちいかなくなり、クラウドファンディングで資金集めを行い、公開に至った本作。出演陣は豪華だが、個々のストーリーに目新しさは少ない。

そもそも、「ブルーハーツ」という縦軸がうまく機能しているように思えない。結局、なぜ「ブルーハーツ」なのか? 本作は答えを提示できていない。

 

それでも、劇場の音量でブルーハーツが聴ける機会も少ないので、ぜひ劇場で見てほしい。